Buho No.213 目次

TeX分科会

文殊壱平


TeXとは

TeX1は, 論文・学術誌を中心に広くに使用されている組版(くみはん)言語です。 縦書きも含め,日本語の文書を美しく組版することができるように なってきたため,近年では書店に並ぶような書籍にも広まりつつあります。

組版という言葉は耳慣れないかもしれませんが, 一言でいえば,文書(主に文字情報ですが,そればかりではありません)を 与えてやると,適当に整形・レイアウトをして,印刷用版下に使えるような 美しいイメージを組み上げてくれるのが,組版システムです。「組む」という 表現が気になる向きには,「活字を組む」という言い回しを 思い出していただければよろしいかと思います。

TeXの得意分野

TeXの特徴を少し挙げてみます。

では,欧文の出力例を以下に示してみます。

欧文の出力例

そして定番の数式出力例です。

数式の出力例

あるいは,本文中に脚注を混ぜて書いておくと, 自動的に該当ページの下部に配置してくれます。 3

このように,TeXは一般のワープロソフトをはるかに超える 記述能力を持っています。 そしてもちろん,上記の複雑な欧文や数式を出力するために書いた資産は, そのまま他の環境に持ち込んでも寸分違わぬ出力が選られるのです。 4 たとえば筆者は,Mule for Win32 + AUC TeX で書いた元原稿を こんのくんから受け取り,WZ 3.0 と VZ 2.0 を使って 追加・校正しています。 5 この原稿は,こんのくんの環境でも, 筆者のマシンでも,情報棟のコンピュータでも全く同じように 組版処理されるので,たとえば編集作業の途中経過を随時ホームページに 置いておけば,原稿を寄せてくれたTSGerがそれを確認することができます。

さらに,TeXを様々な方面に拡張するための追加ソフトウェアが, 各方面からたくさん発表されています。 たとえば,いっそう数式記述能力を高めたり, 物理・化学の用語等を記述できるようにしたりできます。 昔少し試してみたところでは,楽譜を書くような例もあります。 広く使われているLaTeXも,TeXを機能拡張したものです。

前述の通り,TeX は「言語」です。 すなわち,文書の内容をプログラムのように記述します。 コンピュータはそもそも,繰り返し処理がたいへん簡単にできるように 設計されていますから,TeX はパターン化された内容にたいへんな威力を 発揮します。したがって, 一本の論文や書籍をまるごと扱うような使い方に向いています (例えば,1冊の本の中では章のタイトルのデザインなどが 大抵決まっていますよね)。 あなたが手にしているこの部報も,すべてTeXを使って組版して います。もっとも,印刷は学生会館にあるファクス転写式プリンター 6 ですし,製本は手作業によりますから,いくぶん見栄えが劣るのは 仕方がないことです。が,版下を印刷所に持ち込めば, 市販の書籍と比べても見劣りのしないものを わりと安く作ることができます(なにせ,写植の手間がないのですから)。 また,TeX で記述したデータを直接印刷会社に持ち込んで, 最高品位の写植版下を納品させたり,印刷工程まで一気に進めるような こともできるようになってきています。

ワープロにうんざり

日本で一般的に使われている「ワープロ」は,本来の word processing の 機能はあまり重視されず,レイアウトや装飾機能ばかりが重視されてきました。 欧米ではタイプライターが古くから浸透していたので,コンピュータならではの 「書きながら推敲できる」「編集が楽である」というあたりが注目されて いったわけですが,日本ではまずもって「きれいな活字が手軽に使える」ことが 人気を集めてしまったからです。 ですから,日本の「ワープロ」は,文書の編集機能も半端であり, レイアウト機能など出版を意識した部分(DTP=Desktop Publishing)も イマイチ使いにくいまま,売れまくってきました。 手書きでまず原稿を書き,それをワープロで清書してファックスで 出版社に送り,それに朱で校正を加えた後に印刷所に持ち込み, 専門の職人が写植(写真植字)機を操作する,なんていう具合に, 見るからに無駄の多い「流れ作業」が現在でも広く行われているのは, 日本の「ワープロ」の性質に責任の一端がありました。

TeX ブーム到来!

TeX は前述のとおり,学術界では古くから使われてきました。 もとはといえば,当時スタンフォード大学教授で, コンピュータ科学の世界的権威である Donald E. Knuth という先生が, 自身の書籍を出版するために制作したソフトであり, TeX それ自身は全くの無料(フリーソフト)のため, 英語圏を中心に瞬く間に浸透していきました。

日本では比較的初期より,主にASCIIとNTTの研究施設がそれぞれ 日本語対応版を開発し,UNIXで動作するものはフリーで 公開してきました。当時(15年くらい前)まだ非力だったパソコンで 動作するものも作られ,これは一般向けに発売されたこともありましたが, なかなか高価であった 7 こともあり,理系の学術界以外で注目されることはほとんど ありませんでした。

ところが,筆者が中2の時だったと思いましたが, 一本の記事が,当時有力だったパソコン雑誌「The BASIC」に 掲載されました。 8 DTPが一般的になり,同誌もちょうどMacによる全面DTPに 切り替わった直後だったと思います。 流し読みの途中でふと,その記事のページだけ, 雰囲気が他と違ってたいへん上品なことに気付きました。 この記事には,組版ソフトという耳慣れないものをディスク回覧する,と 書き添えてありました(今ではCD-ROM付録が当たり前ですが……)。 TeX ブームの幕開けです。 9 この記事の著者は,松阪大学の奥村晴彦という先生で, 今なお,日本でTeX が広く使われるための執筆活動などを 精力的に続けておられます。

その後,Windows で動作するTeX システムのパッケージが ASCIIやインプレスから発表されたことで,爆発的に利用者が増えました。 そしてディスクやメールでのTeX 入稿に対応する印刷所も珍しくなくなったあたり, 記憶に新しいという方もあるかもしれません。

このように,パソコンの処理能力が向上するにつれ, また,多くの人の尽力の末, 自宅のパソコンでも無理なくTeX が使えるようになりました。 詳しいことは割愛しますが,発展の過程において, TSGが割と深くかかわった経緯もあります。

なお,情報棟では以前からTeXが使えるようになっています。 活動場所としては大人数でもOKな情報棟を使う予定です。 自宅にパソコンがある場合はTeXをインストールして 自習するのも良いでしょう。 ちなみにこんのくんは通常,Mule for Win32をAUC TeXで 機能拡張したうえで,pLaTeX2εの出力をdviout for Windowsで確認しながら 原稿を書いています。 筆者は前述のとおり,エディタはVZ / WZ で, TeX 本体はDLL版を使っています。 10

さて,この分科会では昨年と同じく以下の書籍を使用します。

奥村晴彦 11 『LaTeX2ε 美文書作成入門』(技術評論社,1997年)

サークルの書籍として部室にも置いてあるので,参考にして下さい。

それでは皆さん,ちょべりTeX 12

を目指して共に精進していきましょう。


1) テックないしテフと発音します。
2) 理系の教養(TM)と言われる所以である。
3) 脚注〜。:D
4) 分数もなにもかも!!
5) 馴染みのない固有名詞がでてきましたが,どれもエディタ(編集)ソフトの名前です。エディタとは,ワープロから装飾機能を除いたようなもので,プログラムを書くような場合には必須です。
6) 通称ゲスプリンター,ないしゲスプリ。リソグラフ,ゲステットナー,プリポートなどの商品名で知られているアレです
7) 10万円程度。ただし,専門ソフトウェアともなれば今でも数百万は下らないものです。
8) 残念ながらこの雑誌は,最近休刊となりました。
9) そしてこれが筆者とTeX の出会いになりますが,実はこのとき,2年前に編集担当だったおおいわさんもTeXとの邂逅を果たしていたと聞きますから,この記事の効果の偉大さが身にしみます。
10) 最初に使った286 with EMS版と比べると夢のように速い!
11) ちなみに有名な圧縮アーカイバLHAのアルゴリズムを開発された方です。
12) TSG用語の基礎知識参照

今野 俊一 (こんの, knn) <toknn@ijk.com>, <knn@ebony.plala.or.jp>
東京大学 工学部 計数工学科(内定), TSG(理論科学グループ)